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レジオネラ感染症
1940年から約30年間の間に米国にて7件の集団感染(ワシントンDCにて肺炎81例、死亡12例など)が発生したが、原因不明であった・・・
そして、1976年の7月、米国フィラデルフィア市内のホテルで、米国退役軍人全米大会が開催された際、ホテルの宿泊客221名が原因不明の肺炎にかかり、34名が死亡するという感染事故が発生した。アメリカは国をあげて原因究明に乗り出し、米国のCDC(感染症疾患管理センター)のMcDadeが、事件発生後5か月してついに空調冷却水より新型細菌の検出分離に成功し原因を突き止めた。 その後、このホテルでは1年前にも原因不明の肺炎が発生しており、過去の暴露を裏付ける従業員の血清抗体価も上昇した者が多いことも判明した。さらに後日、過去の原因不明の7件の集団感染はいずれもこの新型細菌によるであることも判明した。 これがレジオネラ菌と人間の戦いの始まりである。
Q. レジオネラ菌とは?
A. レジオネラ菌は本来、地下水、沼、湖、たまり水、湿った土壌、温泉などの“ぬめり”(細菌と有機物の塊)の中に存在し、そこに棲息するアメーバの体内で増殖する細菌です。 普通の細菌は、アメーバに食べられ消化されるところであるが、レジオネラ菌は消化されずにむしろ増殖します。 それは人のマクロファージ(細菌を食べて殺菌する白血球の一種)内でも同じで、殺菌されずに増殖します。
Q. レジオネラ菌の種類は?
A. 自然界には50以上の菌種(L.pneumophila=Lp 、L.mcdalei, L.bozemanii, L.dumioffii、L.gormanii、L.・・・・)が生息し、うち約20菌種が人に感染します。さらに、それぞれの菌種がさらに血清型でLp1群、Lp2群などに分類されます。 人に感染するものの約80%がL.pneumophilaという菌種 であり、なかでもLp1群がその約半数を占めています。(図4)
Q. レジオネラ感染症の頻度は?
A. 1977年には、日本でも患者が確認され、2013年尿で簡単に検査ができるようになり年々報告数が増加しています(図5)。 しかし、成人の2.4%は抗体を持っている(過去に感染したことのある人の割合)という調査結果と、市中肺炎の約4%がレジオネラ菌が原因であるという調査結果(図6)からすると、かかった感染者の中のほんの一部の人が肺炎となっており、ほとんどは軽い風邪と同じような症状で経過しているものと考えられます。
Q. 感染経路は?
A. 沼、湿った土壌などの“ぬめり”に棲息した レジオネラ菌が、土ぼこりとなって、生活圏にあるクーラーの冷水装置、外気に開放された浴槽、庭に作った池、露天風呂など、ありとあらゆる所に落下し、掃除消毒をしないとそれらの配管の中などに新たな“ぬめり”を形成します。 そしてそれらは、ある時水しぶき、ミスト、エアゾルなどとなって、人間の肺に到達し感染を引き起こします。
Q. レジオネラ感染症にはどのようなタイプがありますか?
A. 肺炎を起こさないタイプ(ポンティアック熱)と、肺炎を起こすタイプ(レジオネラ肺炎)とがあります。後者の方が、医学上は大変重要です。
Q. この二つのレジオネラ感染症の診断はどのようにしてなされますか?
A. 喀痰で遺伝子を調べるLAMP法と言う検査法があります。 所要時間2時間で、感度も良く、かつレジオネラ菌のほとんどの菌種・型を調べることができます。
一方、尿で簡単かつ迅速に調べることができますが(尿中抗原検査)、L.pneumophilaの1群以外は調べることができないため、半数のケースは見落とすことになります。(いずれの検査も保険診療でできます)
Q. ポンティアック熱とは?
A. 潜伏期間は1~2日であり、一過性に熱、頭痛などの症状が出ます。しかし抗生物質を飲む必要もなく4,5日で回復します。予後経過が良いため、医療上問題になることはほとんどありませんが、レジオネラ肺炎患者が一人いれば、ポンティアック熱の患者が多数存在していると考えられます。
同じのL.pneumophilaで、レジオネラ肺炎が起こったり、ポンティアック熱が起こったりしますが、その理由は分かっていません。 最後に、ポンティアック熱は、レジオネラ菌に対するアレルギー反応と考えられています。
Q. レジオネラ肺炎とは?
A. 潜伏期2~10日。熱、倦怠感などから、続いて咳、呼吸困難などの肺炎症状が急速に起こります(のどの痛みは起こりません)。 下痢や脳症状(意識障害、痙れんなど)を伴うこともよくあります。 抗生物質が良く効きますが、それでも“免疫力が落ちている人”は治療を早期にしないと重症化することがあります。 統計上、日本においてはレジオネラ肺炎患者の約数%が死に至ります(図7)。
Q. レジオネラ肺炎の危険因子はありますか?
A. 身体的な危険因子として、高齢者、抵抗力のない人(免疫抑制の状態にある人、糖尿病、心肺疾患、大喫煙者、大酒家など)が感染しやすいと言われています。しかし、実際は健康な人も多数みられます。 また、統計上、年齢性別では、男性の高齢者が多いのですが、誰でもなると考えた方が良いでしょう(上図7)
また、疫学的な危険因子としては、実際の事例として下記のようなことがあげられますが、スーパー銭湯や温泉に実際いかなくても、冷水塔や水を循環させる機器の周辺で仕事をする人・生活する人は感染する可能性があります。
・温泉(循環式浴槽)、スーパー銭湯、露天風呂、シャワー、ジェット風呂、足流し湯、打たせ湯
・24時間風呂、プール、福祉施設の浴槽
・家庭の水道交換
・園芸活動(腐葉土の扱う活動)
・加湿器、給湯器
・空調の冷水塔
・噴水や人工の滝
・職業上、ミストや水しぶきに暴露場合(水関係の配管の工事、修理)
・洗車、野菜への噴霧水
Q. 自宅の風呂で、感染することがありますか? また温泉に浸かるだけで感染することはありますか?
A. 自宅の風呂が、髪の毛や垢をフィルターで除去し湯をいつもきれいにする“いわゆる24時間風呂”でない限り、感染する可能性はほとんどありません。また、温泉施設の場合は、温泉の衛生管理が不十分であれば、温泉に浸かるだけでも感染する可能性はあります。
Q. スーパー銭湯などの入浴施設はどのような衛生管理をしていますか?
A. 厚生労働省は、循環温泉施設でのレジオネラ感染症予防対策として11項目にわたる対策を示しています。
①原湯貯蔵漕を60度以上に保つ
②循環式浴槽のろ過装置は週1回以上逆洗し、配管の消毒する
③浴槽中の遊離残留塩素濃度を0.2~0.4mg/Lに保つ
④週一回以上定期的に換水して浴槽を消毒・掃除する
⑤管理記録を3年以上保存する
⑥塩素の利かない泉質の場合は、オゾンか紫外線等の他の殺菌方法を用いる
⑦循環式浴槽水をシャワーや打たせ湯に使用しない
⑧気流ジェットなどエアゾルを発生させる器具を使用しない
⑨浴槽の全換水を行うときは、塩素剤による洗浄・消毒を行った後、浴槽の掃除を実施する
⑩浴槽内部、ろ過機等の毛髪、垢及びバイオフィルムの有無を定期的に点検し、除去する
⑪レジオネラ菌属の汚染の有無を定期的に検査する
*温泉、スーパー銭湯の浴槽水に、レジオネラ菌が少数検出されるのは普通です。
一般に、菌が10CFU/100ml以下になるように、水質管理をします。
Q. 最後に、温泉、スーパー銭湯は大丈夫ですか?
A. 日本の温泉、スーパー銭湯等の施設は、自治体の指導のもと、きちんと水質管理が行われているのが一般的です。 よって、温泉、スーパー銭湯は安心して入浴できます。
万が一、入浴施設利用後2~10日内に、“風邪みたいな症状”が出たら、“ただの風邪と安易に考えず”に、早めにかかりつけの先生に診てもらうのが良いでしょう。 仮に、レジオネラ感染症であっても、大方は軽症の風邪止まりであり、薬も大変よく効きますので、“必要以上に心配することなく”受診しましょう。