ホーム > 安佐医師会可部夜間急病センター便り > 食中毒と腸管出血性大腸菌O157
食中毒と腸管出血性大腸菌O157
1982年米国オレゴン州で、ハンバーガーを食べてひどい血便を起こした患者から新しい大腸菌が発見された。しかしそれが原因菌かどうかはっきりしなかったが、数か月後遠く離れたミシガン州で、全く同じようにハンバーガーを食べた後にひどい血便を起こした患者が発生した・・・
そして、日本。 1990年に、O157により2人の児童が死亡。その後 О157は、時に死亡者を出して、痛ましい記録を残している。
●1990年浦安幼稚園におけるO157集団食中毒事件 : 発病者 319人 死亡者2人
●1996年岡山県の小学校給食による集団食中毒事件 : 発病者 468人 死亡者2人
●1996年大阪堺市O157集団食中毒事件 : 発病者 9523人 死亡者3人
●2000年埼玉県高齢者施設浅漬け集団食中毒事件 : 発病者 7人 死亡者3人
●2002年宇都宮老健施設O157集団食中毒事件 : 発病者 123人 死亡者9人
●2011年富山県ユッケO111O157集団食中毒事件 : 発病者 181人 死亡者5人
●2014年静岡市花火大会O157集団食中毒事件 : 発病者 510人 死亡者5人
●2017年群馬県 惣菜店O157集団食中毒事件 : 発病者 11人 死亡者1人
Q. 下痢、嘔吐、腹痛、発熱などを起こす「腹こわし」の主な原因は?
A. このような症状を起こせば、 ふつう「感染性胃腸炎」が考えられます。 その原因としては、細菌性とウイルス性の二つがあります。 細菌性の多くが「食中毒」で感染するのに対し、 ウイルス性の方は「食中毒」と「接触感染」のどちらでも感染します。
なお、ウイルス性は「食中毒」より「接触感染」の方が多いため、冬場は食事と関係なしに広く流行します。
【豆知識】
「食中毒」とは、汚染した飲食物の摂取により感染した場合を指します。 また、汚染したトングなどの器具や容器・包装に起因して感染が起こった場合も「食中毒」となります。
一方、「接触感染」とは、感染している人の「排泄物」や「血液」、「体液」に触れることにより感染した場合を指します。 汚染した手(手に付いた病原体)が口の粘膜に触れて感染するなどがその例です。
Q. 食中毒の病原体や毒素は?
A. 保健所に報告された食中毒の統計では、件数、患者ともノロウイルスによるものが最も多く、カンピロバクターがそれに続きます。 主には下図のようになっています。
【豆知識】
医師は、食中毒はすべて、保健所に届けることになっています。 しかし、慣例として、患者が単独で、どこで何を食べたか分からない場合などは普通届け出をしません。 ただし、学校関係では、患者が単独でも、給食が原因で発生した疑いがある場合には届け出をします。 また、毒キノコ、フグ毒や化学物質あるいは、アニサキス(サバなどに付く寄生虫)なども届け出をします。
Q. 食中毒で命を落とすことがありますか?
A. 平成12年から28年までの厚労省の資料では、以下のようになっています。
フグ毒 28名
植物性自然毒 17名
(キノコ が主、他トリカブトなど)
腸管出血性大腸菌 36名
サルモネラ菌 10名
ウェルシュ菌 1名
セレウス菌 1名
ブドウ球菌 1名
*ノロウイルスによる食中毒で命を落としたケースは一例もありません。
Q. 食中毒の原因菌は自然界のどこにいるのですか?
A. 食中毒を起こす多くの菌が、牛や豚、鶏などの腸の中にいます。 よって、カンピロバクターは鶏肉、サルモネラ菌は鶏の卵、そして「腸管出血性大腸菌」は牛肉関連で人に感染する例が多く見られます。
Q. 「病原性大腸菌」とは?
A. 大腸菌はヒトや動物の腸管内その他の自然界に広く生息している細菌で、ほとんどのものは無害です。しかし一部のものは人に 食中毒を起こすことがあり「病原性大腸菌」と呼びます。
補足:大腸菌には181種の血清型があります。 これらは発見順に頭にO(オー)をつけて標記します。
Q. 「腸管出血性大腸菌」とは?
A. 「病原性大腸菌」の中で、ベロ毒素(大変強い毒素)を持つ菌を「腸管出血性大腸菌」と呼びます。 ベロ毒素を持った菌が便から検出されて初めて、「腸管出血性大腸炎」という診断になります。 ベロ毒素を持つ確率の高いO157でも、 時に陰性のことがあります。その場合は「腸管出血性大腸炎」とはなりません。
「腸管出血性大腸炎」の患者より、下図のようにO157やO26が多く検出されます。
Q. 「腸管出血性大腸炎」の潜伏期間は?
A. 一般に食中毒は感染して3日以内ですが、「腸管出血性大腸炎」は4日~8日と長いのが特徴です。そのせいで、食中毒に気づくのが遅れたり、 原因食品を見つけるのが困難になったりもします。
Q. 「腸管出血性大腸炎」の起こりやすい季節がありますか?
A. 食中毒は一般にそうですが、夏が多いです。
Q. かかりやすい年齢がありますか?
A. どの年齢層でもかかります。 東京都の統計では、20歳代がやや多いですが・・・
Q. 同じようにかかっても、症状がひどい、軽いがあるのでしょうか?
A. あります。 小児、老人は症状がひどく、成人は症状が軽いか、或いは無い人が多いことが分かっています。統計でも、「腸管出血性大腸菌」が検出された人の約2割は無症状の保菌者となっています。無症状の保菌者の存在は、感染の予防を困難にしている可能性があります。
Q. 「腸管出血性大腸炎」の症状はどのようなものがありますか?
A. 典型的には、“急性虫垂炎や腸重積と間違うほどの右腹部の強い痛み”や“発熱”が起こります。さらに“血性の下痢便や粘血便”が出ます。
【豆知識】
血性の下痢便は細菌性を疑う最たる所見です。 出血は、細菌が大腸につき粘膜を傷つけるためです。 頻度上多いのはカンピロバクターで、 数は少ないものの用心をするべきはO157です。
Q. 「腸管出血性大腸炎」は、他にどのような症状が起こりますか?
A. 溶血性尿毒症症候群(HUS)と言う合併症が1%~10%の人に起こります。 HUSになると、1/4~1/3に脳症も起こります。 そして1~5%の患者が死亡します。
HUSになると、下痢や発熱のあと4~10日して、“元気がない、尿が少ない、むくんだ、皮下出血がでた、頭痛、眠たがり、興奮、けいれん”などの症状が出ます。
なお、HUSは小児と高齢者は起こりやすいです。
Q. 「腸管出血性大腸炎」の感染経路は?
A. 牛肉が解体時に糞便に汚染されます。 牛の糞便は水や土壌を汚染し、さらに畑の野菜も汚染すると考えられます。 汚染された肉や野菜が飲食店に持ち込まれ、次に調理場を汚染し、そして最終的には、汚染された食物をヒトが食べて感染します。
Q. O157の原因食品としては具体的にどのようなものが多いか教えてください。
A. 過去にO157の原因となった食品を下に挙げます。
一定のパターンがあります。 参考にしましょう。 潜伏期間は4~8日です。
Q. 食中毒から身を守るための対策はなされているのでしょうか?
A. 現在、畜産から飲食店等に至るいろんな過程で、次のような対策が取られています。
①牛飼育農業対策
②野菜・果物などの生産段階での管理
③と蓄場の衛生管理:腸管の結紮など、体への汚染防止向上の衛生管理
④食品工場の衛生管理:HACCP等の推進
⑤集団給食施設、レストランなどの対策、加熱対策、汚染防止対策の推進
⑥輸入牛の監視と検査 など
*HACCPとは、食品の製造工程における品質管理システムのことです
Q. 家庭内で食中毒を起こさないために、どのようなことをしたらよいのでしょうか?
A. 食中毒防止の原則は以下のようなります。
①細菌をつけない(清潔、洗浄)
肉や魚、野菜などの食材に細菌をつけないこと。生で食べるものは十分洗うこと。
また調理場に細菌を付けないようにすること。
手を十分洗うこと。
②細菌を増やさないこと(迅速、冷却)
調理は迅速に、調理後はなるべく早くたべること。 室温に長く置かないこと。冷蔵庫に保管すること
③細菌をやっつける(加熱、殺菌)
十分加熱すること。調理器具は洗浄した後、熱湯や塩素剤などで消毒すること。
Q. 最後にもう一度、O157 にかかったかなという症候を教えてください?
A. 「腹こわし」がひどい場合は、何らかの食中毒の可能性があります。 さらに、発熱、右側の強い腹痛、下痢がありその後に血便があれば、O157の可能性が十分あります。 そのような場合はすぐ病院を受診しましょう。